イメージの扉
SOU JR-Sojiji Station Art Project
第3回展示
2019年3月31日ー2019年9月末
今回の展示では、絵を描くことの自由の中に何を伝えようとしているかを考えます。作者は何を描くか、ということと同じく、何を描かないかということも考えます。 ここでの作品は、それぞれとてもシンプルで力強い作品たちです。しかし受ける印象は様々で、どれもが全く違うオリジナリティに溢れています。 シンプルに表現された線やフォルムのイメージは、伝えたいことを明確にさせると同時に作品を受け止める者に想像することの自由を与えてくれます。 作品は「イメージの扉」を開けて見るものを迎え入れ、私たちの自由な想像がさらに作品の創造に結びつき、深まっていくのかもしれません。
第3回目の展示は、橋本良平さん・長谷川一郎さん・岡本啓さん・ミヤザキさんの4作品を紹介します。
橋本良平 「青と赤の絵」
2010年頃制作 縦37.4 × 横53.5cm(実作品サイズ)
紙にマーカー、フェルトペン
橋本良平さん(はしもとりょうへい・1983年生まれ)の作品は、初期の具体的なモチーフを扱った線画から色面の作品へと変化・進化してきました。画面に真摯に向き合う姿勢は次第に必然性を持ち、強い説得力と高い洗練性を獲得しました。本作品に表現されている一見単純に見える形と配色は、非常に丹念に描き重ねてきた中から生まれたイメージです。それは表面のデコボコやヒビなどから感じ取られます。橋本さんが通う、さつき作業所の担当スタッフはこう話します。「橋本さんは作品を見ると明るい笑顔で指差し『青と赤の絵や!』と説明してくれました。彼が大好きな色で描かれた作品です。 『青と赤が好きや』『また描きたい』と作品への思いを語られています。この作品は彼が大好きなものをかたちに したものだそうです。」
長谷川一郎 「Worship」
2012年制作 縦64.5 × 横67.5cm(実作品サイズ)
キャンバスにアクリル
長谷川一郎さん(はせがわいちろう・1978年生まれ)の描く風景は、心を失ったような静寂な気配を与えます。そこはどこか非現実的な場所にいるようです。身近にある景色が遠い場所に感じられ、突き放されたような風景との距離感はどことなく怖さも漂わせ、私たちの心を惹きつけます。 長谷川さんは作品について「この作品は『人と自然』をテーマにしたシリーズの中の一点です。中央のこんもりと茂った木々の中には神社があり、その周囲はコンクリートで固められています。人と自然、そして信仰(自然に対するある種の立ち位置)というものがここには象徴的に表れていると感じました。」と語ります。中央に描かれた人工物と自然の緑はそこにひっそりと溶け込んだ風景として存在し、不思議なシンボルのようにたたずみます。
岡本 啓 「One hundred years」
2010年制作 縦72.8 × 横103 cm(実作品サイズ)
C print
岡本啓さん(おかもとあきら・1981年生まれ)は自身の作品について「写真媒体を用いた絵画表現(photo brush)を継続して行っています。本作はカメラのピントをずらし、レンズ越しにぼやけた像を見ながら被写体を造形する手法を使って制作したphotographic memoryシリーズ です。既に在るものを撮影するのではなく、ファインダー越しの世界を絵画面として捉える試みです。」と語ります。岡本さんは常に写真と絵画の今までの関係について問い直し、新しい考察を投げかけます。それは記録と記憶、夢と現実の間にあるミステリーの探求ではないでしょうか。生まれるイメージは入念にコントロールされ、あえてピントを合わせないことで形の細部は曖昧になり鮮やかな色彩だけが夢のように浮かび上がります。
ミヤザキ 「取組」
2018年制作 縦51.5× 横72.8 cm(実作品サイズ)
キャンバスにアクリル
ミヤザキさん(1992年生まれ)の作品は、格闘技や水着の女性といった刺激的な印象のモチーフを、独特な線によって力の抜けたイメージへと巧みに変容させます。力士たちの激しくぶつかり合う姿は単純化され、まるでじゃれ合っているかのようなユニークな場面が生まれました。 ミヤザキさんは作品について「この絵は力士が組み合っている様子を描いたものです。一見なんのシーンなのかわからないくらいの切り取り方ですが、これまでの作品にも度々出てくる無意識的な法則のようなものです。取組中にも関わらず顔はとても冷静なところがいい。」と語ります。 柔らかな中にも迷いのない勢いある線と大胆な構成とを、絶妙なバランスで成立させています。